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小鬼の日常 およびそれ関連のお話など わからない方は回れ右奨励
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2011/02/25 (Fri)
ああ しまった
たぶんこっちのがさっきの生い立ちより前になるんじゃあないか、、設定上

これは知り合いとの関連付けでできた話かな
かてぃおらがだれかというと

みくしでおれの背後と繋がってる人です(ばく


別大陸で知り合ってたけど
オールドで大変お世話になった感じでw

「何で皆起きないんだよっ」
騒ぎの中紫の髪をした子供が奥へと駆け出した
入り口の方では門を破壊しようとする大きな音が鳴り響いている
走りついた奥の部屋を乱暴に開ける
「おっさんっ!」
寝台で死んだように眠っている部屋の主を乱暴に揺さぶる
それでも起きない男の頬を小さな手で乱暴にはたいた
「・・・・・ぅ・・・・・」
起こされた男はうめき声を上げうっすらと目をあけた
「・・・・・・・おっさんいうんじゃねぇ・・。酒・・・か。おめぇは・・・?」
「おいらは今日は見張りだったから呑まなかったんだっ早く起きろよっ」
夜の宴の酒に混入されていた薬のせいでまわらない頭を働かせようと男は身を起こしゆっくりあたりを見回した
「・・・・・門は・・破壊されたか・・・」
外の音に聞き耳を立て、状況を把握する
動きが鈍っている身体を重そうに動かし、男は得物をゆるゆると身に付けた
その間の見張りをするべく小さな短剣を持って入り口に張り付いている子供を片手で引っつかむ
「おっさん?」
屋敷の中の騒ぎはだんだんとこの奥の部屋にも近づいて来ていた
男は子供を窓の外へと突き出す
「・・・お・・・さん・・・?」
「身体を丸めろ。下の木の枝がお前を受け止める」
相手が自分を逃がそうとしているのに気がついて、子供は声を荒げた
「おっさんっ!おいらだって闘えるっ!」
子供の声は暗い宙に消えていく
「いい女になれよ・・・」
その声に向かって男はそう一言かけると腰の得物を抜き、きしむ扉に身構えた

顔に当たる陽にゆらりと子供は目をあける
身動きをすると揺れる場所に自分がいることに気がついてあたりを見回した
なんそうにも重なった木の枝の上、其処から見上げる崖の上に煙が上がっている
「・・・・・」
無言で唇を噛締めると子供は痛む身体を庇いつつ樹からそろそろと身体を降ろす
「おっさん・・・」
そう呟くと一人で冷たい風が吹く中ふらふらと歩き出した
その方向に町があるかさえ定かではなかった
数日後ふもとの街に小さな影が辿りついていた
痩せこけた姿がふらふらと街中を歩く
緑の茂る季節ならいざ知らず、冬の訪れるこの時期に小さな子供の手で探し出せる食料は殆どなかった
此処まで来る間、子供が口にしたのは僅かな木の実と水だけだった
陽が落ち夕餉の近い時刻だった
そこかしこから食事の美味しそうな匂いが漂ってくる
露天の店頭で持ち帰りように出来合いの食べ物が並べられていた
小さな子供のふらつく足がそれをみて止まる
頭ではいけない事だとわかっていたが、子供には抗えなかった
それほど子供は飢えていたから・・・死にそうなほどに
小さな手が隙をついて揚げ立ての食べ物を端から一つ盗み取る
それを口に入れようとしたその瞬間
大男が子供の首根っこを掴んで宙へ持ち上げた
「又かっ!」
掴む力さえなくなっていた子供のその手から食べ物は地に落ちていった
「次は二度としたくなくなる仕置きをすると言ってたのを嘘だと思っているな?!」
耳元で怒鳴る男の声さえ子供の耳には入らなかった
ぼんやりと地に落ちた食べ損ねた食べ物を子供はぼんやりと見つめていた
突然背中に激痛を感じて子供は身体が跳ねる様に動いた
背中でじゅううと焼ける音が響く
通りを歩く人が幾人か眉をしかめて足を止めたが、子供は気付かなかった
「痛いだろう!熱いだろう!これに懲りたらもう二度と盗みをするなっ!」
男が怒鳴るその向うで女の怒鳴り声が響いた
「あんたら、また店のもんに手をだしてっ!」
男が驚いたように声のほうをむく
驚きに緩んだ男の手から子供が小さな音とともに滑り落ち、その下に身体を横たえる
必死に動かそうとしたその手は子供の意思に反して動くことなく、食べ物の僅か手前で止まった
「あんたっ、そのこはこの街の子じゃないよっ!何してるんだいっ!」
男の妻らしい女の声が男を叱るとき子供の目は疲れたようにゆっくりと閉じていった

ぼんやりと目をあけると何処かの軒の下だというのに気がついた
白い靄がかかった様な意識の中あたりをゆっくりと見回すと先ほどの店の裏だと察しがついた
自分の身体にかけられた女性の上着を不思議そうに見つめていると元気な女の声が聞こえた
「目が覚めたかいっ?」
子供は小さく頷くとゆっくりと身を起こした
自分のしたことを思い出し小さく呟く
「・・・ごめん・・・」
子供は背中の痛みに一瞬息をのんで女のほうを窺い見た
「腹減ってたんだろうっ?失敗した奴だ、お食べ」
差し出された皿に載せられたものを見て子供の動きが止まる
「こっちこそ悪かったよ、とうちゃんが勘違いして一生消えない傷つけちゃったもんね」
「・・・・・・・悪いと・・・しっててやったから・・いい」
子供は小さく首を振った
「男の子かな?」
子供の顔を暫く見て女が尋ねた
暫く考える様子をしていた子供が小さく頷いた
「よかった。女の子だったらお嫁に行く先を保証しないといけないからねっ」
けらけらと笑いながら冗談らしいことをいって女は店のほうへ戻っていった
小さく溜息をつくと子供は皿の上の食べ物を手づかみでそろそろと食べ始めた
やっとのことで口にした食べ物はこの上ないご馳走だった
目に溢れる涙をこしこしと拭うと一生懸命貰った食事を口へと運んだ


久しぶりに膨らんだ腹に満足の溜息とつき、子供はぼんやりと屋台で立ち働く夫婦の姿を見ていた
仕事に忙しく声をかける隙もない夫婦の姿に小さな溜息をつくと、子供はその場をこっそりと離れた
子供のいた場所にはきちんとたたんだ上着と食べ物の入っていた皿が汚れないように木箱の上にそっと置かれていた
女がそれに気がついたときは街中の教会の十字架の上に月が止まっていた

「さぁむぅいーーー!」
白い羽を震わせてエンジェルの少女が思わず声を上げた
月光に照らされた敷地内の聖堂の扉をそっと閉める
どれだけ音を抑えても、先ほどの彼女の声のほうが遠くまで響いたはずだがそのことに気付いた様子もなかった
「こんな寒い日に忘れ物するなんてあたしのバカっ」
きれいに澄んだ声が敷地内に響く
冷え込む夜中
月明かりで必要ないと思われる灯りを消さないように、注意深く部屋へと戻りかけた少女の足がふと止まった
少女の目の先
物置小屋の戸が僅かに開いていた
几帳面なシスター達がそんな閉め方をするはずがない
そう考えた少女は手を腰にあて、仁王立ちになってその方向を睨み付けた
「あたしがやっつけてやるわっ!」
きっと泥棒が入り込んだと察した少女は握りこぶしを握り締めるとずんずんと音がするような歩きかたで歩き出した
「・・・・・」
息を潜め開いた入り口から中の様子を窺い見る
高窓から差し込む月明かりに照らされ、小屋の中は思ったより明るかった
だれもいない、そう見えたその瞬間、奥のほうでごとりと音がする
「だっだれっ!」
音に驚いて少女は思わず大声を上げて小屋の中へと踏み込んだ
薄暗い部屋の奥に、紫色の髪の毛が動いた
相手が自分より小さい子供だと気がついた少女は続けざまに声をかける
「キミ!そんなところで何やってるのよっ!」
「・・・・・るさい・・・」
少女が相手が普通じゃないのに気がついたのは、その小さな呻きにも似た声を聞いたからだった
「ちょっと、キミ、大丈夫っ!?」
「・・・・大丈夫だから・・収まったら出て行くから ・・・・あっ!・」
少女の方に小さな背を向けたその姿が苦しそうに丸くなる
その背から音を立て黒っぽい羽が弾ける様に飛び出した
あまりの出来事に息を飲み立ち尽くす少女の耳に、蹲った子供の荒い息遣いが聞こえる
「あ、あたしっ、シスター呼んでくるからっ!」
自分の手には負えないことだと判断した少女は、そう叫ぶと小屋の外へと飛び出していった
「・・・・・・」
人が来る、そう聞いた子供は痛みにうずく身体を必死の思いで動かして小屋の外へと出ようと足掻いた
「慈悲深い人の家だそうだから・・・少しの間ぐらい良いと思ったのに・・・」
荒い息遣いの下そう呟きながらやっとのことで入り口にしがみ付く
そして自分の行動に時間がかかりすぎた事に悔しそうに舌打ちを打った
先ほどのエンジェルの少女が数人のシスターを引きつれて転びそうな勢いでこちらに向かって走っていた
目を覚ますと何処かの部屋にいることに子供は気がついた
質素だけれどきちんと手入れの行き届いた部屋
ゆっくりと目を巡らせると其処に部屋の主らしいシスター姿の年配の女性が座って膝の本に目を落としていた
子供が自分を見た事に気がつくと女性はにっこりと微笑んだ
「気がついたようですね。具合はどうです?」
「・・・・・すぐ出る・・・」
「無理ですよ。まだ体力が戻っていないでしょう?」
暖かい布団とその声はずっと此処に身体を横たえていたい気にさせたが、
子供は自分の心に鞭をうってその誘惑から逃れようとした
「・・・・大丈夫。迷惑かけて・・・」
ベッドの横に立つと部屋の主に小さく頭を下げた
子供の様子に女はどうしようかという風情で膝の本を閉じ、傍らのチェストの上に置いた
「・・・あのね、行くところがないのならここにいて良いのですよ?」
女は俯いたままの子供にそういった
言い聞かせるように子供の顔を覗きこむようにして女は続けた
「ここは行く所のない子供達の生活をする場でもあるのです」
その言葉に思い出したように子供は顔を上げた
「・・・・・あの天使の女の子・・・・?」
「ええ。あなたを見つけたカティオラもここで生活をしているこの一人ですよ」
そのまま黙り込んだ子供を温かい目で見つめ女は子供の返事を待った
「・・・・・動くのがしんどくなくなるまで・・・」
小さな声で子供が渋々といった承諾の言葉を言うのを聞いて女の口元がほころんだ
「ええ、もちろんですよ。あなたの行く先が見つかるまでここで生活をね・・?」
何かを言いかけて女は思いついたように胸元で手を合わせた
「あなたの名前を聞いていませんでしたね。私はモーリア。此処の院長をしています。」
自己紹介をすると女は促すように子供の戸惑った顔を見つめた
「・・・小僧とか、ちびすけとか・・」
「それは呼び名でしょう?名は・・?」
「一番昔に呼ばれていたのは・・・Victimとか・・・」
「・・・・・・・・」
子供の言葉に何を思ったのか女は黙り込んだ
「ねぇ」
黙り込んだ女に子供は小さな声で呼びかけた
返事のかわりに微笑んで首をかしげた女に子供は俯いたまま問いかける
「此処は神様とかのうちなんだろう?」
「・・・ある意味そうですね。それがどうかしましたか?」
「おいら、前に神様を怒らせたんだ・・。だからここにいちゃいけないと思う」
子供の言葉に納得したような顔をして女は暖かい手で子供の頭をそっと撫でた
「此処の神様はその違います。あなたを怒ったりしませんよ」
小さく横に首を振る子供に女はふと顔を上げた
「・・・・・ええとね、さっきからハーブの香りがするのだけれど、あなた何か匂い袋でも持っているのかしら?」
女の言葉にはえたばかりの子供の羽が驚いたようにぴくりと動く
「・・・・?」
怪訝そうな顔の女に子供の声はますます小さくなる
「・・・・ごめん・・たぶん、おいらの・・・匂い・・・」
「まぁ!身体から花の匂いがするなんてなんて素敵なんでしょう」
女は確かめるように子供を抱きしめた
「本当によい香り・・・そうね、私が新しい呼び名を付けてあげましょう」
膝を突いて子供と同じ視線の高さになった女が困惑した子供の頬を撫でた
「ラヴェンディラというのはどうですか?あなたと同じ香りのする草の名前です」
「花や草の名前なんて女みたいで嫌だ・・・」
子供が女の子だと知っていたが、女はそれには触れずに微笑んだ
「小僧やちびすけとか・・・”犠牲”などよりはるかに良いと思いますよ」
ふてくされた子供を抱きしめ、背の羽を撫でながら女は子供に言い聞かせるように言った
「私の好きな花の一つですよ、ラヴェンディラ」



「このお金はどうしたの?」
カティオラは扉の前で足を止めた
(あー嫌だ、またヒスシスターが誰かをいじめてるー)
そのまま扉にそっと耳を近付ける
子供達が影でヒステリーおばさんと呼んでいるシスターの声が部屋の中で響いていた
「おいらのだよ」
「あなたが此処へ来た時には一文無しだったのはみんな知っています
 どこから手に入れたのかおっしゃい 」
キンキンと響く声に眉をしかめながらカティオラは中の様子に聞き耳を立てた
「働いたんだ」
「此処の子供達は労働をしてもお金を貰うことなんかありません
 どこから手に入れたんですか 」
だんだんと甲高くなっていくシスターの声に反して、応対している子供の声は淡々としている
(あの子だ・・んもう、あの人新しい子を見るとすぐいじめるんだからっ)
新しく入った子供を助けようとカティオラが扉に手をかけたとき、子供の声がぼそりと呟いた
「シスターでも子供の私物は見ないと、おいら聞いたんだけど・・・」
―――ぴしゃん!
「おだまんなさいっ!さぁ、誰から盗んだのかさっさといいなさいっ!」
肉をはたく音に続いて女の甲高い声が堰を切ったようにわめき始めた
(痛いところ突かれたから切れたんだわ・・)
カティオラは一瞬部屋に入るのを躊躇った
ああなるとあのシスターは誰の手にも負えなくなるのだ
(わ~ん、誰か通りかかってよー)
音を立てないように地団太を踏みながらエンジェルは辺りを見回すが、そう都合よく誰かがくるはずもなく
部屋の中で女の怒鳴り声はますます高くなっていった
「大体ね、人の目をきちんと見て言えないなんて、やましいことがあるに決まってるんだっ!」
言葉遣いもとてもシスターとは思えなくなってきている女に対する子供の声はあくまで淡々としていた
「おいらは人の目の奥を見ちゃいけないらしい」
「正直な人は人の目を見つめて話すのよっ!さぁ、目を開けて、誰からこのお金を盗ったか言うのよっ!」
部屋の中から柔らかい何かを硬いものにぶつけるような音が響く
(椅子に叩きつけられてるのかしら、助けないと)
再びカティオラが扉の取っ手に手をかけたとき子供の声が静かに響いた
「・・・言っとくけど、見たがったのはそっちだからな 責任は自分にあるんだぞ?」
「何を・・・さぁ・・・・・」
女の声が途切れたと思ったとたん、今までのわめき声よりも更に高く女の悲鳴が響いた
カティオラは今度は迷わず扉をあける
目の前に痣だらけの子供が部屋の隅を冷たく見つめていた
その視線の先を追うと、悲鳴を上げ続け頭を抱え縮こまるシスターの姿があった
「・・・・一体・・?」
「おいらの目の奥を見たからだろ・・・」
「それだけで、なんで・・」
子供を助けるために入ったはずのカティオラはシスターへと近づきかけた
「いやーーー!!こないで!!」
絶叫を上げるシスターの姿にカティオラの足はそこで止まる
「大抵のもんはおいらの目の奥覗くとそうなる」
響き渡る悲鳴に慌しい足音がこの部屋へと向かっていた
子供はそれを窺うように扉の方に視線を移した
シスターの悲鳴は止まったものの小さく怯えた様子は止まることがなかった
「何事です?」
騒ぎの固まりになった部屋の入り口で院長の静かな声が響いた
「目を見て盗ってない金を盗ったと言えといわれた」
それははしょりすぎでしょ、と子供の淡々とした説明にカティオラは心の中で突っ込みを入れる
「おいらの目、覗いちゃダメらしいって言ったんだけどな」
責任はあっちにあるというがごとく、こどもは隅ですくむシスターの方を見た
カティオラが近寄ることさえ拒んだ女は、院長が近寄ってくるとすがるように抱きついた
「目・・・ですか」
片手で十字架を握り締め、怯える女の背中をなでながら院長はポツリと呟いた
「院長様、この子、殴られてるんですよっ」
子供を庇おうと聞いてたことを話そうとするカティオラの声が聞こえないかのように、院長は怯える女から離れると、子供の手を取ってそこに膝まづいた
「・・・・・・・・・・・・・・鏡・・・よ」
あまりにも小さい声でそばにいるカティオラさえ聞き取れない呟き
何とか聞き取れた言葉の殆どは古い言葉で意味もわからず、何とかわかったのは鏡という言葉だけだった
院長の呟きが終わると同時に子供の様子が変化した
黙ったまま天空を見つめるその子供の目を、立ち上がった院長はそっとのぞきこんだ
「院長様っ?!」
尊敬する院長に何かあってはと近づきかけたカティオラを院長は片手を挙げて止める
「・・・・・・答えを手に入れたわ・・カティオラ、このこの羽根を一枚抜いてくれる?」
何が起こったのかわからず、言われるままカティオラは羽根をそっと抜いて院長に手渡した
「ちょっとね、ラヴェンディラを見てて頂戴ね」
羽根を受け取ると、院長は怯える女のほうへと近寄る
「さぁ、その悪夢を消してしまいましょうね」
怯える女の目を頭を身体をそっと羽根でなでていく
院長が離れると呆然としたシスターがそこに座り込んでいた
「・・・シスターミリア。何を見たのか私にはわかりません。ただあなたの見たものはあなたの中にいるものですよ。わかりますか?」
院長の言葉に呆然としていたシスターの表情が驚愕に染まる
状況が飲み込めず子供を抱えていたカティオラは何かに突き飛ばされてしりもちをついた
振り返ると怒り狂った形相の子供が院長を睨みつけていた
「今、おいらに何をした」
「・・・あなたの力を借りました」
静かな院長の声にも子供の怒りは収まる様子はなかった
「おいらを、消そうとしただろう」
「神の力を借りて、あなたから答えを頂いたのです」
「おいらを消そうとした! 信じてたのに!」
院長の声は子供の耳に入っているようには見えなかった
「院長はキミを助けようとしたのよ」
状況がわからないながらも、カティオラはその場をとりなそうと声をかける
「おいらを消そうと!」
急激な魔力の高まりを感じ取りその場にいたものが伏せると同時に、子供の周りで電気を帯びた爆発が起こった
崩れ落ちた窓から子供は走り出る
「ちょっと、此処は二階っ」
言いかけて窓に走りよるカティオラの目の前を紺色の翼が横切り天空へ消えていく
「・・・・あの子、誤解したまま・・」
背後に無念そうに呟く院長の声を聞き、カティオラは振り返る
「あたし、よくわからないんですけど・・」
無言で微笑むと院長はカティオラの頭をそっとなでた
その目は雪の降る天空を見えなくなった子供の姿を探して彷徨っていた


通りを駆け抜ける小さな影に店の女将は声をかけた
「よっ!何処行くんだい?教会のお使いかい?」
驚くように振り返った子供の表情がいつもの様子ではないことに気がつき、店の裏手に引きずり込む
「どうしたんだい?!誰かにいじめられたのかい?!」
女の言葉に子供は驚いたように女の顔を見上げた
その目に涙が盛り上がり流れたが、子供は乱暴にそれを袖で擦った
再び見上げたその顔は照れたように笑顔を見せていた
「ねぇ、これ受け取ってくれないかな・・?」
女の手を掴むと子供はポケットから何かを取り出しその手の中に落とした
ちゃらちゃらという金属音
「・・・これは・・?」
女の怪訝そうな声に子供は目をそらす
「・・・あんたあそこの店、よく覗いてたよね・・」
そういって通りの角の店を子供は顎で指し示した
怪訝そうな顔の女に笑顔を向けると子供はポツリと呟いた
「あの赤いショール・・・きっと似合うよ?」
あの服飾店の暖かそうなショール
ぽんと買うには値段が張りすぎてこっそりへそくりを貯めつつ、覗いては溜息をついていた
いつ見られていたんだろう
旦那でさえ気付きもしないというのに
そしてこの手の中の金は・・・
女のもの言いたげな顔に子供は再び笑顔を向ける
「買って上げたかったんだ。 あん時の礼は受け取ってもらえないだろうから、せめてと思ってさ・・・」
あのとき
この子供を助けたときに差し出した店の品物の値段に比べ、女の手の中の貨幣ははるかに越えていた
「・・・気持ちだけで十分だから・・これはあんたがとっておくんだ。あれはあたしのへそくりで買うんだから・・・」
子供の手を取って返そうとすると、子供は手を後ろに組んでそれを拒んだ
「やっぱり貯めてたんだ。その中にそれも入れてくれ。ちゃんとした金だよ。院長に頼んで余分な仕事をもらってそのかわりにもらったんだ。理由を聞いたらおっけいしてくれてさ・・だから安心して受け取って」
言いよどむように子供は言葉を切って俯いた
「おいら・・もういかないといけないみたいだから・・・」
小さな囁き声に女が聞き返そうとしたとき
元気の良い少女の声が響き渡った
「見つけたわよっ!!!」
建物の影から白い翼の少女が飛び出してきた
「あんた・・?」
こちらへ向かってくる少女と、自分のそばにいる子供を交互に見比べ女は戸惑った声を子供にかけた
「・・・よくしてくれてありがとう・・・」
子供はふわりと女の首を抱くと小さく呟きその場を駆け出した
その後を追い天使の少女が駆け抜けていくとき、女は子供にもう会えないのだと気がついた
こんなお金なんて・・
「・・・オイ!どうした?」
自分の夫が声をかけるまで、女は自分が泣いていることに気がつかなかった
「・・・なんでもないよ・・そう、なんでも」
女の言葉は嗚咽にとかわった


人ごみに紛れ街の門を軽々と越えていく姿にカティオラは叫んだ
「待ちなさいよっ!ちゃんと院長様のお話を聞きなさいっ!」
遠く離れた先で子供が立ち止まりゆらりと振り返った
「・・・おいらを消す理由を?」
小さい声だったがはっきりと聞こえたその声に再びカティオラは確信がもてないまま怒鳴った
「誤解なのよ!」
「・・・・どんな理由であれ結果は同じなんだろう?
 神様はカティオラみたいなきれいな子が大事なんだ・・」
子供のいってる綺麗が見目の事ではないのは気がついた
「・・・生きているから神様が怒ってるんだ、わかってるんだけど・・おいらはまだ・・」
子供の向けた目にカティオラは言葉を失った
背をむけ去っていく子供にこらえきれず少女は叫んだ
「絶対!いつか捕まえて!話を聞かせるからねっ!」
「聞いてやらないから忘れなよ」
去っていく背に少女が燃えるような目で決意を固めているのに子供は気がつかなかった
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