出たい人いる?www
「何の用でしょうね?」
丁度帰ろうとしたところを捕まった文天祥は横にいる宮廷魔術師に話しかけた。
彼もわからないらしく困った顔で闇エルフのほうを見返し首をかしげた。
二人に「王様がお呼びです」と声をかけた兵士は黙って先を歩いていく。
「面倒ごとじゃないといいんだけどな」
闇エルフの独り言に種族不明のフードをかぶった魔術師はこっくりと頷いた。
王の執務室の前にくると兵士は扉を開けた。
「陛下。文天祥様とガロン様をお連れしました。」
中に一言うと後ろを振り返り二人に入るよう促す。
「ありがとう。暫く誰も此処へ来ないようにしてくれるかい?」
執務机の前で佇む国王の言葉に兵士は腕を胸に当て頭を軽く下げた。
「了解です。」
そのまま後ずさると兵士は扉を閉めた。
部屋の中に静寂が広がる。
───面倒事の様だな・・
文天祥は心の中で呟いた
「二人ともよく来てくれたね」
宮廷魔術師のガロンは両の手を胸に当て忠誠を込めた挨拶を返した。
闇エルフもそれに習って軽く頭を下げる
国王を名乗るこの男と二人きりのときなら名も呼び捨てるところだが、人前ではお互いの立場上そうも行かない。
「実は、この瓶なんだが・・」
アンスは机の上の瓶を指差した。
横に置かれた先ほどの手袋は触れたところから手の甲の部分まで黒ずみが増していっている。
「この酒瓶がどうかしたのでしょうか?」
ガロンが腰を軽くかがめて瓶に顔を近づけた。
闇エルフも特に何も感じなかった。
怪訝そうな顔を国王に向けて話の続きを促す。
「ラヴェンディラ嬢が飲めないというんだ」
その言葉に瓶を覗き込んでいた宮廷魔術師が顔を上げ、闇エルフのほうに目を向けた。
文天祥も魔術師の顔を見る
彼女の酒好きはこの国の周知の事実で、人のしないようなことも彼女の中では常識とされるところがある。
蓋に細工があるのなら瓶の口を切り落としてでも飲むであろう、彼女を知るものならそこまでしようと察しはつく。
その彼女が飲めないという、その言葉に二人は異常を理解した。
「飲もうとして瓶に触れた私の手袋がそこにある」
闇エルフと魔術師は瓶と手袋の関係を理解して手袋を見直して目を見張り、そして眉をしかめた。
瓶に触れたであろうその先は腐り落ち、黒ずんだ腐敗は手袋の皮に広がっていた。
「先日妻から貰ったばかりだったんだが・・なんと言い訳したものかな」
若干ずれた国王の言葉はスルーされ闇エルフと魔術師は改めて瓶を見つめた。
二人はそれぞれ瓶、手袋に手をかざす。
ガロンは幾つかの呪文を口の中で唱え始めた。
魔術師の手のひらが淡く光るがその光は押し込まれるように手の中に消えていった。
「天祥様 お解りになりましたか?」
闇エルフは翳した手の内から幾つかの術式らしきものを感じ取りはしたがそこまでだった。
「毒とかではないね。なんか・・・古い術式のような気がするんだが」
「ですよね。術がかけられていますが、術式が見たこともない・・・」
腐敗の術式というのはわかった。並びがよく理解できない。
闇エルフと魔術師の見解は合致した。
「解けないのかい?」
アンスののどかな声に魔術師は頭を下げた。
「お畏れながら陛下、今の段階では私には無理でございます」
「おれも同じく・・」
降参というように闇エルフは両手を上げた。
「じゃあ、これを誰も触れないように管理保管、はできるかな?」
困ったように瓶と手袋を見てアンスは尋ねる。
「触れることで発動するようなので、それは可能かと」
再度瓶に手を翳し魔術師は答えた。
すでに幾つかの術式を周囲にかけている。
抜けはないですよね、というように魔術師は闇エルフのほうを仰ぎ見た。
闇エルフが頷くと魔術師はそれを手の中に浮かし持った。
「それでは此れはお預かりいたします」
「うん 頼むね」
アンスが頷くと魔術師はそれをささげ持つ格好で執務室を出て行った。
「・・・アレはいったい?」
二人きりになると眉をしかめて闇エルフは友人を仰いだ。
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