「古い町並みでございますね」
闇天使に手を引かれながら青年は辺りを見回した。
石畳と同じような石で作られた複雑な路地を抱く町並みを三人は歩いていた。
「ディラ、道わかるの?」
目の前から背後に移った教会の姿を見て闇エルフが先頭を歩く闇天使に声をかける。
「この前行き先探すのに走り回ったから多少はね」
石畳を数えるようにうつむいて闇天使は小さく呟いた。
「一人追加・・・?」
「いや、もう一人、かな」
闇エルフが小声で答える。
頷いた闇天使はひょいと左手に現れた小さな路地に二人を引き込んだ。
「千歳、肩借りる」
闇天使は相手の返事も待たずにひょいと壁と青年の肩と軽くステップを踏むように飛び上がる。
「二人はこのまま先いって」
小声でそういうと闇天使はふいっとその場からさらに飛び上がった。
翼も出さずすいっと建物の上方へと移動する。
上方から見ると闇天使たちが通った道筋を三人の男たちが身を隠すようについて来ているのが見えた。
闇エルフと青年が先を行く小道に三人がふぃっと入ったのを確認すると、闇天使はふわりと音も立てずに建物の上方から路地へと飛び降りた。
闇天使の気配に気づかず、二人の背後をつける三人に闇天使は声をかけた。
「なぁ、なんでおれらつけてくるわけ?」
用心してつけていた三人に、背後からの声はあまりにも衝撃だったらしい。
一瞬たちんぼになった男たちに闇天使は間髪置かず襲いかかった。
二人の男の急所をそれぞれ一撃し昏倒させると最後の一人の腹に雷撃を纏わせた拳を深く突き立てる。
「ぐはっ」
意識を失うことも無く、その男はその場に膝をついた。
物音に先を行ってた二人も戻ってくる。
闇天使が男の髪をつかみ、顔を上げさせたとき青年がちょっと驚いた声を上げた。
「あら、先ほどの方でございますね」
ちらっと戻ってきた二人のほうに目をやると、闇天使は再び男に声をかける。
「へぇ?あそこからずっとつけてきたんだ?何が目的だよ?」
闇天使から顔を背けようとする男の胸倉をつかみ闇天使は自分のほうを向かせた。
「おれ、伴侶にストーカーはやっちゃっていいって言われてるんだけど」
その言葉に男の身体がひくりと竦む。
「ディラ、やりすぎるなよ?」
闇エルフが言い諭すように声をかける。
男が細々と言葉を吐き出した。
「すとー。。かーでは・・ない・・」
聞き慣れない訛りが混ざった言葉が耳に障る。
「じゃ 何?」
闇天使の容赦の無い質問がかぶせるように続くが、男はまた黙り込んだ。
気短な闇天使の利き手には再びばちばちと電気の青い火が花開く。
その光から目をそらして男はおどおどと再び言葉を吐き出した。
「ワたしたチの、さガしているモのを、知ってルかと」
「探し物ってなにさ?」
再び黙り込んだ男を地面に落とすと、闇天使はその前にしゃがみこんで相手と同じ高さになる。
昏倒した二人を念のためにと縛っていた文天祥はその身体に以前見た刺青があるのに気がついた。
「ディラ、こいつら」
「もしかして、コレか?」
闇天使が胸元をあけ、胸に縫いこんだ青緑のガラス質の石を相手に見せていた。
男はそらした顔から目だけを動かしてそれを見た。
目をそらし、違うという様子をしかけて、再び闇天使のその胸元を、今度はしっかり顔を向けて凝視した。
「ふかイミずのイろ、まりょクのみなモと」
男は震えるその手を闇天使の胸元へと伸ばす。
その横っ面を闇天使の拳が容赦なく打ち据えた。
「女の胸に手伸ばすなんてやっぱりストーカーじゃんか」
言いがかりに立ち上がろうとしても、打撃とともに走る雷撃に身体がしびれたようで男は転がったままうめき声をあげている。
闇天使は連れの二人に背を向けたまま声をかけた。
「二人とも、ちょっとどっかいっててくれねぇかな?」
ひやりとしたその声に文天祥は闇天使のその背を振り返った。
「ディラ、やりすぎるなっていったよね」
「ラヴィ嬢?」
不安そうな青年の声が重なる。
「おれ、こいつに見せちゃったからさ。口塞いでおかないと迷惑かけるかも知れないからさ」
闇天使がどんな形相をしているのか、それを見ているその一人は竦んだ表情を浮かべカタカタと震えている。
「殺すより他にも手は探せばあるだろ」
この不審者を殺させないというより、この闇天使に、殺しをさせたくない一心で闇エルフは言葉を続けた。
「俺が何か方法を考えるから・・」
「魔法は、ばれる」
闇天使はそういってあきらめた様に小さくため息をついた。
「ヤル方が簡単なんだけどなぁ・・」
「ディラ?」
しびれて動けない男を地面に仰向けにさせると闇天使はその頭を掴み固定し、その目を覗き込んだ。
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