「古い町並みでございますね」
闇天使に手を引かれながら青年は辺りを見回した。
石畳と同じような石で作られた複雑な路地を抱く町並みを三人は歩いていた。
「ディラ、道わかるの?」
目の前から背後に移った教会の姿を見て闇エルフが先頭を歩く闇天使に声をかける。
「この前行き先探すのに走り回ったから多少はね」
石畳を数えるようにうつむいて闇天使は小さく呟いた。
「一人追加・・・?」
「いや、もう一人、かな」
闇エルフが小声で答える。
頷いた闇天使はひょいと左手に現れた小さな路地に二人を引き込んだ。
「千歳、肩借りる」
闇天使は相手の返事も待たずにひょいと壁と青年の肩と軽くステップを踏むように飛び上がる。
「二人はこのまま先いって」
小声でそういうと闇天使はふいっとその場からさらに飛び上がった。
翼も出さずすいっと建物の上方へと移動する。
上方から見ると闇天使たちが通った道筋を三人の男たちが身を隠すようについて来ているのが見えた。
闇エルフと青年が先を行く小道に三人がふぃっと入ったのを確認すると、闇天使はふわりと音も立てずに建物の上方から路地へと飛び降りた。
闇天使の気配に気づかず、二人の背後をつける三人に闇天使は声をかけた。
「なぁ、なんでおれらつけてくるわけ?」
用心してつけていた三人に、背後からの声はあまりにも衝撃だったらしい。
一瞬たちんぼになった男たちに闇天使は間髪置かず襲いかかった。
二人の男の急所をそれぞれ一撃し昏倒させると最後の一人の腹に雷撃を纏わせた拳を深く突き立てる。
「ぐはっ」
意識を失うことも無く、その男はその場に膝をついた。
物音に先を行ってた二人も戻ってくる。
闇天使が男の髪をつかみ、顔を上げさせたとき青年がちょっと驚いた声を上げた。
「あら、先ほどの方でございますね」
ちらっと戻ってきた二人のほうに目をやると、闇天使は再び男に声をかける。
「へぇ?あそこからずっとつけてきたんだ?何が目的だよ?」
闇天使から顔を背けようとする男の胸倉をつかみ闇天使は自分のほうを向かせた。
「おれ、伴侶にストーカーはやっちゃっていいって言われてるんだけど」
その言葉に男の身体がひくりと竦む。
「ディラ、やりすぎるなよ?」
闇エルフが言い諭すように声をかける。
男が細々と言葉を吐き出した。
「すとー。。かーでは・・ない・・」
聞き慣れない訛りが混ざった言葉が耳に障る。
「じゃ 何?」
闇天使の容赦の無い質問がかぶせるように続くが、男はまた黙り込んだ。
気短な闇天使の利き手には再びばちばちと電気の青い火が花開く。
その光から目をそらして男はおどおどと再び言葉を吐き出した。
「ワたしたチの、さガしているモのを、知ってルかと」
「探し物ってなにさ?」
再び黙り込んだ男を地面に落とすと、闇天使はその前にしゃがみこんで相手と同じ高さになる。
昏倒した二人を念のためにと縛っていた文天祥はその身体に以前見た刺青があるのに気がついた。
「ディラ、こいつら」
「もしかして、コレか?」
闇天使が胸元をあけ、胸に縫いこんだ青緑のガラス質の石を相手に見せていた。
男はそらした顔から目だけを動かしてそれを見た。
目をそらし、違うという様子をしかけて、再び闇天使のその胸元を、今度はしっかり顔を向けて凝視した。
「ふかイミずのイろ、まりょクのみなモと」
男は震えるその手を闇天使の胸元へと伸ばす。
その横っ面を闇天使の拳が容赦なく打ち据えた。
「女の胸に手伸ばすなんてやっぱりストーカーじゃんか」
言いがかりに立ち上がろうとしても、打撃とともに走る雷撃に身体がしびれたようで男は転がったままうめき声をあげている。
闇天使は連れの二人に背を向けたまま声をかけた。
「二人とも、ちょっとどっかいっててくれねぇかな?」
ひやりとしたその声に文天祥は闇天使のその背を振り返った。
「ディラ、やりすぎるなっていったよね」
「ラヴィ嬢?」
不安そうな青年の声が重なる。
「おれ、こいつに見せちゃったからさ。口塞いでおかないと迷惑かけるかも知れないからさ」
闇天使がどんな形相をしているのか、それを見ているその一人は竦んだ表情を浮かべカタカタと震えている。
「殺すより他にも手は探せばあるだろ」
この不審者を殺させないというより、この闇天使に、殺しをさせたくない一心で闇エルフは言葉を続けた。
「俺が何か方法を考えるから・・」
「魔法は、ばれる」
闇天使はそういってあきらめた様に小さくため息をついた。
「ヤル方が簡単なんだけどなぁ・・」
「ディラ?」
しびれて動けない男を地面に仰向けにさせると闇天使はその頭を掴み固定し、その目を覗き込んだ。
うーって どこまでおれのいうこときいてくれるかな??
火吹くぐらいはしてくれるかな??
(ってどこで誰に質問を
本当は成人してるっぽいです 見かけは10代前半でもとおりかねませんが
まぁ、、年齢不詳
種族は闇天使でSS中も闇天使と便宜上かいてますが厳密に言えば違うかな
魔力のカケラが形をとった
そしてそのカケラは意思のない本体(無尽蔵な魔力の源)とつながっているというイメージですか
本体の動きを監視する監視員にたまに絡まれて機嫌が悪くなったりするようですがそれは別サイドのお話になりますな
ラベンダーブルーのザンバラ髪 最近はたまにとかしてるようです 猫がしょっちゅう梳きに来ます(は
目の色は月色と 更に何かといえば鏡ですかね
額には目の色と同じ角 もしくは第三の目があります
背は結局150越えることできなかったようで
全体的に華奢といえるぐらい細身なので更に小柄に見えるようです
胸はあります ぇぇ いらんぐらいあるようですよ(は
普段は出してませんが
背に上から紺色 空色空色と二色3対の翼があります
一番下の翼は奇形 翼というより飾り羽のようです
とりま自作絵下に展示しました
第三対目翼形状等下記参照で(´▽`; 肌色はもう少し白いとおもいますが
(こういう塗りに凝ってた頃の絵であいすいません!w
全身から呼び名の由来となったラベンダーを基調にした香りがします
歩く芳香剤とか
このためにとても裏方的仕事に向いているにも拘らず忍び込んだりとかできなかったりします
いやでもするけどさ ばれる
最近(といいつつ数年前だ(´▽`;
胸にグリーンとブルーが入り混じったガラス質の石を埋め込みました
これはアクサスの沖にある魔力の強い海竜の居住地と繋がっていてそこの魔力も受け取れるようです
(本人はそこの海竜の仔の様子を知るのに使ってるようです)
服装は簡易で動きやすいものを好んできます
基本的に 今戦闘になった としてもそれに対応できる服でいる感じです
盗賊団やら階層的に下のほう悪いほうにもともといたためか色的には目立たない色を選ぶのが普通のようです
ずっと男だと思って育ったようでそのせいもあるかもしれませんが
下にはさらしをまいていたりします きっとまだ一人でぶらじゃーとか買いにいけないんですよ(殴られ(誰に
身に着けるものは魔法処置されていて、簡単な怪我などは一旦血を止めるぐらいの機能がついてます
ハイヒールはまだ履きなれてません はくとこけます(ぁ
一人称はおれ あたしに変えようと思ってたときもあったようですが もうおれでいいじゃんみたいな(ぁ
結構つっけんどんで無礼です 尊敬できる人と思えばそれなりの態度もとるようですが、すべて同等、もしくは自分が上という態度
育ちが育ちなので、上流な話し方できないことはないけど 必要が無ければしません
笑ってるイメージがありますが、表情は乏しいようです
愛想がないわけでもないですが表情を覚える時代人とろくな接し方をしてなかった為とおもわれます
戦闘的なこととしては
自分の力と持久力が無いのを知っているので、一撃必殺で相手の急所を狙うのが常です
素早さばっかりあげまくったアサシンタイプです(3Dゲーム的表現してみる
魔力はあるけど(それこそ無尽蔵に!)魔法というのをあまり知らないので 術をかけてきたりはめったにしません
その代わりその魔力を意思化し、雷として自在に操ります
主にそれは感情に左右されるようで いかずちが神の意思というのなら おれこそかみ!とかぬかしてたりするとかしないとか(ぉぃ
他に羽根や髪に魔力を送り込んで刃として何よりも軽い自分自身の武器として使います
送り込まれる魔力の大きさで刃の硬度は変わります
目もくらむほどの魔力が入れば石や鉄なども軽く切れるんじゃないですかね
タイプ的には体術派ですか
盗賊団にきちんと武術を修めた人がいたらしく珍しくきちんとした基礎を教わっています
毎日の基礎鍛錬はしてますので盗賊崩れ、暗殺者崩れにしては、と思われることもあるかもです
あとなにがあるか。。
無類の酒好き むしろコレが主食じゃないかというような
他に好きなものはメロンとか?
食事は少食 カフェインの入ったものはあまり好んで摂りません むしろミネラルウォーター飲む方
料理は下手じゃないです 味覚はいいほうでしょう
甘すぎるお菓子とかも苦手のようです
紅茶など飲めないくせに完璧に淹れます(修道院で教わったとのこと
なぜか竜とのかかわりが多いです よくはぐれた仔竜を保護してたりします
そだそだ目だ、目
コレが人の目を覗き込むことはめったにありません
魔力の坩堝となっている、という感じで
ちょっと間違えると覗き込んだ相手の中に制御なしで魔力を流し込んでしまう危険があるらしい
あなざすとーりーの魔女が恋人にやった奴ですね=w=
注意深く使えば軽い記憶操作などできるようですが「ころすほうがらく」というぐらいの感じらしいです
相手の記憶その他共有することになるらしく、それも気持ち悪いってのがあるようです
人の表情とかは良く見てるようです
盗賊団でいたとき相手が何か言う前に何かしようと動いてたせいですかね
脳みそ読まなくてもさといと言うのはこの辺りのようです
いつも危険を回避しようという本能?が働いてるため耳も良く聞こえ気配に気を配ってるところがあります
すべてのスイッチを切って寝るのは伴侶の横ぐらいですか
窓の外を猫が歩いても身体を休めながらその気配を探るみたいな、そういうのが普通になってる感じです
(’’ あとまた思いついたら書き込んでいこうかなと。。w
いぁ まだとちゅうっすけど(目そらし
てか手直しするつもり満載というか
やってるの書き下ろそうとか時間も無いのに考えたりいろいろですが
ぃぁ!ウェイト差あるんだからさ!うちあいとかさ!(ばく
まあ せっかくだし殺るきでいきまっさw
白い猫の情報で昔の知人がこの国に来てるという
「あいつなら、酒場よりも多分こっちのはずだ」
小鬼がすたすたと歩いていく先はこの国の武館
戦っているところも観戦できるというその待合室への入り口へとその手をかけた
勢いあまって大きな音を立ててその扉が開いた
奥に見えるのは見覚えのある頭
「ほーら!やっぱりな!」
人を指差してはいけませんと、教える人のいなかった小鬼は堂々と目的の男を指差し、大きな声を上げた
ふと気がつくとその周りには今対戦している戦士たちを応援している人々が驚いたようにこちらを振り返っていた。
それに気がつくと小鬼は照れたように己の頭を掻いた
相手の男もこちらを見ているのに気づいた小鬼は照れたような小さな笑みを浮かべた
「よぅ 他に相手がいねぇならおれが相手してやっても良いぜ?」
相手の返事を待たずに、小鬼はふらりと辺りを見回した
ワゴンのほうにいろいろ積んであるのが目に入った
此処に来ると血がたぎる
普通のときでさえ水や食事の代わりに酒を飲んでいると言われる小鬼のこと、此処では酒を飲まずにはおれないと、ワゴンを漁ろうとしたところ、白い毛皮に覆われたニクキュウがその手を止めた
「シャオも来てたのか・・」
「セイリオスさんとお手合わせで?」
肉球がぐいぐい押し付けられる
「試合をされるなら紅茶のほうが良いですよぅ」
白い猫が小鬼の手から酒瓶を取り上げいそいそと香り高い紅茶を入れている
白猫がしまいこんだ酒瓶の場所をきっちりチェックしつつ困った風で立ち尽くす小鬼
白猫が入れたてのお茶を小鬼と男に押し付ける
「ブランディもたらしておきましたので此れでご辛抱を」
男が素直に受け取り白猫に礼を言うのを横目で見つつ、小鬼は白い猫がしまいこんだブランディの瓶を取り上げた
「相手してもらえるか?」
男の目はすでに闘志をはらんで熱く燃えている
この目を前に飲まずにいるなんてできないだろう
小鬼は手の内の瓶を煽る
熱い酒が喉を焼いて身体の奥に落ちていく
唇がにぃっと上がるのを堪え切れない
腕で口元をぬぐうと手の中の酒瓶をワゴンに戻す
「相変わらず熱いな」
「熱くなれる相手がいるからに決まってんだろう」
嫌味も無くあっさりと言ってのける男に小鬼は手まねく
「やるならさっさとやろうぜ」
二人は猛る身体を押さえつつ待合室を後にした
まあこれが ラヴェの魔力の源
虚空を満たすほどの魔力をコレと共有?してるそんな感じなんですかね?
そう怒鳴る兵士の顔を女は見上げた
以前、この顔は別の表情で別の言葉を発した気がする・・そうぼんやり思いながら
「ありがとうございますっ、貴方様のおかげで霧が晴れたような気がします」
若い兵士は元気よくそういい、照れたように頭を掻いた
不思議そうに彼の顔を見る女に、兵士は我に返ったように自分の口を押さえる
「ご無礼を。・・貴方様に口をきいてはいけないと言われていたのを忘れてました・・」
反省したように項垂れ出て行く兵士の姿を、女は人形のような笑みを浮かべたまま見送った
男が去り現れた女たちは全て口に覆い布をつけていた
無言のまま部屋を掃除し、男の痕跡を片付けていく
女の周りにいるもので彼女に話しかけるのは先ほどのような偶に現れる客ぐらいしかいなかった
偶に現れる客という者たちは無言のまま彼女の目の奥を見つめ何かを得たように頷き去っていく
彼女自身の知らぬことではあったが、現れる客達は女の瞳を通して何らかの形で魔力を受け取り、力としていくのであった
それさえ彼女に語るものは誰もいなかった
彼女の魔力の坩堝であるその瞳は揺らぐことのない月光の溢れる泉でなければならなかったから
ある意味邪眼と言われるそれをもつ彼女は名前さえ与えられず、感情というものから遠ざけられ、ただのものとして大事に扱われていた
偶に来る客の稀に話す言葉もあるのかどうかも定かでない彼女の心に触れることはなかった
ある日やってきた客はいつもと違っていた
「あんたが先を見せてくれるという女か?」
いきなり話しかけられ、女は不思議そうに目を上げた
にこにこと笑いかける男は、いつも来る客たちのように女の顔を見ないように俯いていたりはしなかった
「美人でよかった。見るに耐えない皺くちゃの婆だったらどうしようかとずっと悩んでいたんだ」
人懐こく話しかける男に答える術を持たない女は、そっと小首を傾げた
「で、どうすればいいんだ?」
笑みを浮かべ聞く男に、女は傍らの椅子を指し示した
「座るのか、それで、次は?」
新しい体験にわくわくしている様子の男の姿にいつもと違う気持ちが起るのをただぼんやりと感じながら、女はいつものように客のその瞳に焦点を合わせる
一瞬の後、男の身体が大きく弾かれたように動いた
そして硬直したように動きを止める
その瞳は彼女の目の奥を見続けたままだった
暫く見続けた男は、大きく溜息をつきながら彼女の瞳の魔力を遮るように瞼を閉じた
「・・・・参ったな」
男は自らの手で自分の目を覆う
「これは禁忌じゃないか・・」
男の言う言葉を理解することもなく女は小さく小首を傾げ、男のその様子を見つめていた
「・・・・・しかし、おかげで助かったと云わざるを得ないのも確かだ」
先ほどまでの浮かれた様子は払拭され、男はすくっと椅子から立ち上がった
そして怖れることもなく彼女の瞳を再び見つめ、その手を握り締めた
触れることはならないと言われたはずの彼女の手を
「感謝する」
短く礼を口にすると、先ほどとは違った様子で部屋から出て行った
女は自分の心に湧き上がったものにどう扱っていいのかわからずに、ただその後姿を見送った
いつもと変わらない日が流れて行き、女も自分の中の変化を忘れかけたころ再び男が訪ねてきた。
「貴方の奇跡をもう一度俺に・・・」
部屋に入るなり禁忌を犯していることに気付きもせず彼は彼女の手を握り締めた。
彼の真剣な眼差しに彼女は立ち尽くしたままで彼に瞳を覗き込ませる
暫く後に彼は彼女をきつく抱きしめた
「この感謝の気持ちをどう伝えればいいのか・・」
誰かに抱きしめられるという心地よさに彼女は酔った
「貴方の名前を教えてくれないだろうか。誰も答えてくれない。」
自分を抱きしめている男を女は不思議そうに見上げた
「な・・まえ・・・?」
その表情に男はやっと合点がいったような表情を浮かべた
「本当に・・・・ないのか」
自分の腕の中でうっとりとしている女には男が浮かべた表情の意味が読み取れなかった
「・・・・・失礼ではないのなら、俺に呼び名を付けさせてもらえないだろうか」
そして男は再び禁忌を犯す
「・・・・・と呼んでも良いだろうか」
彼女の耳元で呟く言葉は彼女の中に変化を起こす
ぼんやりとしていた目の焦点がきちりと合い男を見つめた
「・・・・・。」
「そう、貴方の呼び名。」
「・・・・・。私の呼び名・・・」
まるで赤子のような目で見つめる女を彼はいとおしそうに抱きしめた
「まるで人形から人になったようだな・・」
彼が呟いた言葉は、今起きたことをそのまま言い当てていたが、彼自身気付いてはいなかった
自分の中に起きた変化をどうしたらいいかわからず、女はぼんやりと過ごしていたが、彼女に変化が起きたことに周りのものは築いている様子は無かった
いつものように彼女の力の源を覗きこんでいく客たちも何も気付かなかった
名前を貰い自我の目覚めた彼女が自分たちの心をこっそりと眺めているのに気付いたものは誰もいなかったのだった
ある日訪ねてきた常連の婦人客は上品に作法を守って彼女の瞳を覗き込んだ
客は必要な情報を得、更に力を得ようとしたその時、銀の泉は堅い鏡と化した
怪訝に思いながらきっと自分が作法を間違えたに違いないと婦人はそう解釈して何も言わずその部屋を後にした
婦人が立ち去り部屋も片された中女は一人立ち尽くしていた
こっそりと気付かれないように眺めていた婦人の心の中に、自分に名前をくれたあの男がいた、それだけのことが自分の中におこした感情というものに女は途方に暮れていた
そしてタイミング悪く其処へ男がやってきたのだった
「・・・・・」
自分の与えた名前を呼び、彼女を抱きしめその瞳を覗き込んだとき
男は何を思ったのだろう
いつもと違う瞳の輝きに彼はそのまま動きを止めた
与えるだけだったその魔力の泉は天空へ立ち昇る竜の力にも似た攻撃性を持って彼の中へとねじ込まれていった
もちろん彼女は攻撃をするつもりなど毛頭なかった
ただ、先ほどの婦人との関係を知りたい、それだけのことだった
加減の知らないその力が一体何をもたらすのか彼女自身も知らなかった
客がなかなか出てこないのに痺れを切らしたのか、身の回りを世話する者たちが入ってきた
とたん、屋敷中を震わせるような悲鳴が上がる
意識を破壊された男と、其処に座り込み不思議そうに彼の顔を見つめている女との姿が其処にあった
彼女には知る術もなかったが彼は彼の世界では大切な人だったらしい
彼女と二人でいる間、彼が禁忌を犯していた事を知るものは彼女のほかに知るものはなかったが、彼女はそれを禁忌だと言うことさえも知らなかった
そして決定される
英雄の精神を破壊した魔女
「此処が貴様の永遠の牢獄だっ」
いつか彼女に礼を述べたその口が彼女を罵り虚無の空間へと追いやる
「・・・・・あの人は・・・・?」
あのときからずっと聞きたかったことを彼女はポツリと口に出した
「・・何をっ・・・貴様があの方の心を破壊したんだろうっ!あの方は俺たちの英雄だったのにっ。貴様があの方を殺したんだ、この魔女め!」
女は若い兵士の罵る言葉の殆どが理解できなかった。
ただ、彼はもうこの世にはいないのだ、そしてそれをしたのは自分なのだということだけを理解した
女は静かに虚無の空間へ足を下ろす
背後でゆっくりと次元の穴が塞がっていく
何もない空間に男の名前を呼ぼうとして彼の名前を知らないことに女は気がついた
「・・・・・どこ・・・?」
彼女の顔を見て微笑んだその顔を求めて彼女はゆっくりとあたりを見回した
闇さえもない虚無の空間
男の微笑を思い浮かべ其処へ座り込む彼女から陽炎のように月の光に似た魔力が虚無の空間へと流れていく
あの部屋で彼を待っていたように女は彼を待つことにした
彼がこの世から消えたということと迎えにこれないということが彼女の頭では結びついていなかった
誰も彼女に物事について教えることがなかったから
自分が正気かも狂っているかもわからない虚無と言う空間の中で彼女はぼんやりと彼を待ち続ける
密やかにその空間を自らの魔力で満たしながら
最初から扱いが酷いのが・・・
子供の身体から外の雨が滴るように、枝からも雫が落ちる
「・・・・?」
無言で問いかける男に、ただ怒ったように枝を押し付ける
良く見ると花が咲いている
季節外れの雨よりも散りやすい花びらのついた花が・・・
「桜・・・?」
男の声に子供は不機嫌そうに頷いた
「どうしたんだ、この季節に」
受け取った男の腕の中の桜から落ちるのは枝についた雨の雫のみで花弁の散る様子はなかった
「失敗した」
子供はバスタオルをかぶるとむくれた顔で乱暴に頭をこする
不審に思い始めた男が枝を振りながら子供に尋ねる
「何を?」
頭を拭くのを止めて子供は其処に座り込んだ
「治そうと思ったんだよ・・」
男が剣のように振りかざした桜の枝は雨の雫を落とされて淡く銀色に輝いた
散ることのない華奢な花弁が花の香りを纏う
「折れてたから、ライがするみたいに魔力を入れてやって治そうとしたのにっ」
かぶっていたタオルを子供は床に投げつけた
「枝掴んで目を開いたとたん花咲いて・・・木にくっつけようとしてもくっつかないんだもんっ」
「・・・枝がくっつきたくなかったんじゃないか?」
男の静かな声も子供の耳には入っていないようだった
「おまけに、咲いた花がよりによって桜だなんてっ!」
どうも子供は桜が嫌いらしかった
「花が散るまで部屋に飾っておくか・・」
男がバケツに水を入れて戻ってきても子供はさっきと同じ場所でむくれた顔で座り込んでいた
その後姿に苦笑しつつ枝を挿すと花弁がこすれて月の音の様なかすかな音を奏でた
数日後――――――
鳥を数羽掴んだ男が家の扉をあけたとたん、室内からカップが飛んできた
驚きながらも受け止めると扉の横の壁にパン用のカッターボードがぶち当たる
どうやら自分を狙ったわけではないと思いつつモノを投げている主を見つめた
部屋の真ん中で仁王立ちになって棚のほうを閉じた目で見つめている子供は、珍しく怒り狂っている様子だった
初めて見る子供の怒りの形相に鳥をテーブルに置きつつ声をかけた
「・・・何をしてる?」
振り返った男はぎょっとして息をのんだ
投げるものが近くになくなったらしく、子供の周りにばちばちと放電する電気の球が数個浮いている
「ラヴ!」
男が声を出したとたん青く光る球が壁に向かって疾走した
そしてふっと壁際で溶ける様に消える
男が魔力で消し去ったのだ
それに気がついた子供は振り向きもせず怒鳴り飛ばした
「邪魔すんな!」
子供の叫び声を避けるように棚から銀色の球がふ~っと男のほうへ飛んできた
「・・・家を壊す気か?」
自分のほうへ飛んできた銀の球を男は軽く手で掴んだ
「・・・これは?」
手を開くと銀の光を帯びた小妖精らしいものがちょこんと座っていた
「そいつ、叩き潰してやる!」
闇天の子供は男の掌のそれに向かって突進してきた
開いてる片手で子供を押さえ、捕まえたそれを上へと持ちあげる
「・・・おい?」
相手の興奮状態を落ち着かせようと声をかけるが聞く様子はなかった
「そいつ、おれのこと「ご主人様」とかぬかしやがるっ、そんなこと言う奴は叩き潰すー!!」
男に阻止されぱたつきつつも子供は怒り狂って男の手の上の小妖精を捕まえようとしていた
「・・・よくわからん」
手の上の小妖精を見ても困ったように闇天の子供の方を見ているだけだった
「おれはー、おれの上に人を置かないし、下にも置かないっ!手下や、家来や、奴隷のように、おれのことご主人様なんていう奴は許さない!」
男にはよくわからない理論だったが、子供は子供なりのポリシーがあって、手の上の小妖精はそれを破ったらしかったのは理解した
「・・・つまり、こいつがお前のことを「ご主人様」と呼んだから家を壊そうとしている・・と?」
その言葉に子供はやっと自分が引き起こしてる状態に気がついた様子だった
「・・・・だって、そいつすばしっこくて・・」
子供は消え入るような声でぶつぶつと呟いて俯いた
「・・・で、これはなんだ?」
子供は突きつけられた小妖精をぶすっとした顔で睨みつけている
「・・・黙ってたらわからん」
「そこの桜から出てきた・・・」
子供の顎が指し示す方向には先日子供が持ってきた銀色の桜の枝が置かれていた
「呼び名をくれというから、んじゃ銀桜っていったら・・・・っ!」
子供が爪が食い込むほど握りこぶしを握り締めた
「ご主人様と呼ばれたわけだ。依り代を作って名前まで与えたら呼ばれて当然だと思うが・・・」
「おれは認めないっ!」
「・・・・・・人じゃない、小さな魔物だ」
男の言い聞かせるような言葉に帰ってきたのは、ぎんと音がしそうな子供の怒りだけだった
「・・・住処に戻った方がいいと思うが?」
話すことは出来なくても理解は出来るらしく、男の言葉に小妖精はしょんぼりと桜の枝の側へ飛んで行きそっと闇天の子供のほうを窺い見た
「失せろっ!」
子供の怒鳴り声に小妖精は小さく俯くとふっと消えた
小さく肩をすくめると、男は怒りの収まらない子供を其処に残し鳥の処理をするために台所へと向かった
男が獲って来た鳥の羽根を荒っぽく抜いている間、向うの部屋では子供が後片付けをしているらしくごとごとと音が響いていた
「・・・手伝う・・・」
毟り終えた羽根を入れた布袋の口を閉める頃、子供がむくれた様子でやってきた
怒りは収まったものの振り返った自分の様子が気恥ずかしい様子だった
「なぁんだ、羽根毟っちゃったんだ・・・って・・あぁ・・」
丸裸の鳥に指を走らせた子供が椅子にすとんと腰掛け鳥を丹念に調べ始めた
「・・・・問題が?」
「・・・これじゃ食えない・・」
溜息をついた子供は閉じた目で指を走らせ、男が毟り残した棒毛を丹念に取り除いていく
暫く向かいで見ていた男が鍋に火を起こした
一羽目を綺麗にぬいた子供が無言で鳥を男に手渡し、次へと取り掛かる
残った毛を焼くために男が鳥を掴んで火の鍋に向いた時目の端を銀の光が横切った
男が横目でそれを追うと先ほどの小妖精が処理のされてない鳥の影から子供の様子を覗いているのが目に入った
が、何も言わず鳥を火にくぐらせる
二羽目の毛抜きがまだ終わらない様子なので、男はそのまま鳥をたわしで洗い、胸にナイフを走らせ内臓の処理を始めた
毛を抜き終わった鳥を横に置きながら子供がぼそっと呟いた
「隠れてても見えるぞ・・?」
小妖精は一瞬首をすくめたが、三羽目の鳥の毛抜きを始める子供が先ほどのように怒っていないのに気がついたらしくおずおずと出てきた
そして子供のしていることに気がついたらしく、同じように棒毛を抜こうと子供の持っている鳥の毛を掴んで引張ろうとした
それに気がついた子供が手を休めその姿を黙って見つめた
小さい妖精は力が殆どないらしく一つも抜くことができないようだった
必死に抜こうとしている姿に小さく溜息をつくと子供は小さく手を振って小妖精を追いやった
「☆..:*・゜☆..:*・゜☆..:*・゜☆..:*・゜☆」
小妖精が何か言ったが男には理解できない言葉だった、が子供には理解できるらしい、子供の拳がものすごい音を立てて机を叩いた
どうやらまた「ご主人様」といったらしい
怯えた様子の小さな魔物は男のほうへふわふわと飛んできておずおずと子供のほうの窺いみる
内臓を取り出し翼の先や首を落としていた男が小さな魔物をちらりと見やった
「・・・名前ではいかんのか?」
男の言葉に小妖精は酷く怯えた表情で身をすくめた
どうやらそれはその小さな魔物にとっては恐れ多いことらしい
「・・・別の呼び方はできないか?」
このままでは台所も被害にあいそうだと思いつつ男は言葉を重ねた
その言葉に小妖精は不思議そうな顔で子供のほう暫く見つめた
「☆..:*・゜☆.」
おずおずとしたその様子の声はなんといったのかは男には理解できなかったが、今度は子供の怒りは爆発しない様子だった
「☆..:*・゜☆.!」
子供の反応に喜んだらしい小さな塊は子供に向かって突進していった
「☆..:*・゜☆..:*・゜☆..:*・゜☆..:*・゜☆!!」
「だから「ご主人」って呼ぶなっていったろーがっ!」
嬉しさのあまり又呼んでしまったらしい小妖精は子供の叩き付けた鳥の下からもう一度同じような声で子供を呼んだ
「☆..:*・゜☆.・・・・」
「・・・それなら百歩譲ってやる」
子供と小さな魔物のやり取りに、何とか収まりそうだなと心の中で呟きつつ男は二羽目の鳥を火であぶり始めた
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